◆日本酒と仕込み水
寒さが深まると、熱燗が恋しくなります。日本酒を語るとき、米や酵母に注目しがちですが、日
本酒の約80%は水であり、酒造りに使われる「仕込み水」の水質は日本酒の味に大きく影響します。
「名水の地に銘酒あり」。古くから伝わるこの言葉は美辞麗句ではありません。
本稿では、「仕込み水」の水質に焦点を当て、水質が日本酒に与える影響について触れてみたいと思います。
◆仕込み水の水質が日本酒に与える影響:鉄
鉄はごく微量でも酸化を促し、着色や風味の劣化を招くため、水道水の基準値が0.3ppm以下であるのに対し、酒造用水(仕込み水)は0.02ppm以下という厳しい基準が設けられています。鉄を嫌う日本酒の繊細さがよくわかる指標です。
◆仕込み水の水質が日本酒に与える影響:硬度
硬度は水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を示し、硬度の高い「硬水」は酵母の働きが活発になり、輪郭のはっきりしたキレのある辛口寄りの味に仕上がります。対して、硬度の低い「軟水」は発酵が穏やかに進むため、香り高くまろやかな甘口寄りの味に仕上がる傾向があります。
◆甘口と辛口
日本酒の味わいを語る際に「甘口」「辛口」との表現がよく使われますが、これは砂糖の甘さや唐辛子の辛さではなく、酒の芳醇さやキレの良さを示す言葉です。この甘口と辛口の主要指標には前述の硬度のほか、「日本酒度」や「酸度」などがあります。
◆甘口と辛口の主要指標:日本酒度
「日本酒度」は、日本酒の比重を示す言葉であり、諸説ありますが-1.4〜+1.4が中庸とされています。測定には日本酒度計(測定範囲:-20~+20)と呼ばれる「浮きばかり」を使用し、プラス(比重が軽い)なら辛口、マイナス(比重が重い)なら甘口を示します。
◆甘口と辛口の主要指標:酸度
次に「酸度」ですが、一般的に0.5〜3.0程度に収まり、1.4〜1.6が中庸とされています。酸度が低ければ、柔らかく軽快ないわゆる淡麗(辛口寄り)味わいになり、高ければ、骨格がしっかりしたジューシーで濃醇(甘口寄り)な味わいになります。
ただし、これらはあくまで判断材料の一つであり、実際の味わいは酵母や製法など多くの要素が絡み合うことによって生まれます。
◆地域の水が育む個性
私たちが暮らす岡山県にも、真庭市の「塩釜の冷泉」や岡山市の「雄町の冷泉」といった日本名水百選にも選ばれる良質な水源が知られています。地質が育んだ水が蔵の味を支え、地域ごとの個性を生み出しています。
蔵元を訪ね、水源にふれてみると、その日本酒がなぜその香りや味になるのかがより鮮明に感じられると思います。
◆今後の酒選びに加える新たな視点
仕込み水に目を向けるだけで日本酒の世界は広がります。
この視点を持つと銘柄選びがより楽しくなり、好みの味にも出会いやすくなります。
好みの一本に出合ったら、その蔵の仕込み水について調べてみるのも一興です。小さな発見が、日本酒との距離をそっと縮めてくれるでしょう。








